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東京地方裁判所 平成9年(ワ)15630号 判決 1998年11月27日

甲事件原告兼乙事件原告

アシェット

フィリパキ プレス ソシエテアノニム

(以下「原告アシェット」という。)

右代表者

ベルナール マンフロア

右訴訟代理人弁護人

関根秀太

後藤康淑

高橋豪

藤井康広

水落一隆

武藤佳昭

丙事件原告

株式会社エファ

(以下「原告エファ」という。)

右代表者代表取締役

辻村浩一

丙事件原告

株式会社シカタ

(以下「原告シカタ」という。)

右代表者代表取締役

志方郁二

右二名訴訟代理人弁護士

岡邦俊

小林克典

小畑明彦

近藤夏

甲事件被告兼乙事件被告

株式会社デコ・ジャパン

(以下「被告デコ」という。)

右代表者代表取締役

福井健翁

甲事件被告兼丙事件被告

株式会社タカイシ

(以下「被告タカイシ」という。)

右代表者代表取締役

高石浩正

甲事件被告

株式会社オナガメガネ

(以下「被告オナガメガネ」という。)

右代表者代表取締役

小永二三

甲事件被告

佐藤金属工業株式会社

(以下「被告佐藤金属」という。)

右代表者代表取締役

佐藤忠昭

乙事件被告

株式会社広田

(以下「被告広田」という。)

右代表者代表取締役

広田良平

右五名訴訟代理人弁護士

佐藤雅巳

主文

一  被告デコ及び被告タカイシは、原告アシェットに対し、別紙第一標章目録②又は③記載の各標章をヒップバッグに付し、又は、右各標章を付したヒップバッグを販売し、あるいは、販売のために展示してはならない。

二  被告デコ及び被告オナガメガネは、原告アシェットに対し、別紙第一標章目録①又は③ないし⑤記載の各標章を眼鏡フレームに付し、若しくは、同目録①ないし③又は⑤記載の各標章をサングラスに付し、又は、右各標章を付した眼鏡フレーム又はサングラスを販売し、あるいは、販売のために展示してはならない。

三  被告デコ及び被告佐藤金属は、原告アシェットに対し、別紙第一標章目録①又は③記載の各標章をカフスボタン若しくはネクタイ止めに付し、又は、右各標章を付したカフスボタン又はネクタイ止めを販売し、あるいは、販売のために展示してはならない。

四  被告デコ及び被告広田は、原告アシェットに対し、別紙第一標章目録②記載の標章をガスライターに付し、若しくは、同目録②又は③記載の各標章を灰皿に付し、又は、右各標章を付したガスライター及び灰皿を販売し、あるいは、販売のために展示してはならない。

五  被告タカイシは、原告エファに対し、別紙第一標章目録②又は③記載の各標章をヒップバッグ、リュックサック、ボストンバッグ、ショルダーバッグに付し、又は、右各標章を付したヒップバッグ、リュックサック、ボストンバッグ、ショルダーバッグを販売し、あるいは、販売のために展示してはならない。

六  被告タカイシは、原告シカタに対し、別紙第一標章目録②又は③記載の各標章をトートバッグ、ショッピングバッグ、ハンドバッグ、財布、定期入れ、キーケース、名刺入れに付し、又は、右各標章を付したトートバッグ、ショッピングバッグ、ハンドバッグ、財布、定期入れ、キーケース、名刺入れを販売し、あるいは、販売のために展示してはならない。

七  被告らはそれぞれ、第一ないし第四項については原告アシェットに対し、第五項については原告エファに対し、第六項については原告シカタに対し、各被告らが所有する第一ないし第六項記載の、各商品から各標章を抹消せよ。

八  原告アシェットの被告デコ、被告オナガメガネ及び被告佐藤金属に対するその余の請求をいずれも棄却する。

九  訴訟費用は被告らの負担とする。

一〇  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

(甲事件及び乙事件)

一  被告デコ及び被告オナガメガネは、原告アシェットに対し、別紙第一標章目録②記載の標章を眼鏡フレームに付し、又は、右標章を付した眼鏡フレームを販売し、あるいは、販売のために展示してはならない。

二  被告デコ及び被告佐藤金属は、原告アシェットに対し、別紙第一標章目録②記載の標章をカフスボタン若しくはネクタイ止めに付し、又は、右標章を付したカフスボタン又はネクタイ止めを販売し、あるいは、販売のために展示してはならない。

三  右一、二項記載の各標章の各商品からの抹消請求

四  その余の請求は主文同旨

(丙事件)

主文同旨

第二  事案の概要

一  被告らが別紙第一標章目録①ないし⑤記載の標章(以下、それぞれ「被告標章①、②、③、④、⑤」といい、これらをあわせて「被告標章」という。)を使用し、また、その使用を許諾していたところ、本件は、原告らが、右行為は、不正競争防止法二条一項一号又は二号の定める不正競争行為に該当すると主張して、同法三条に基づき、被告らに対し(原告エファ及び同シカタは被告タカイシに対し)、その差止と被告標章の廃棄を請求した事案である。

二  前提となる事実(証拠を示した事実を除き、当事者間に争いはない。)

1  原告アシェットの商品等表示

原告アシェットは、別紙第一商標目録①記載の商標(以下「原告商標」という。)を付した女性向けファッション雑誌を発行し、また、各企業に原告商標の使用を許諾し、右許諾を受けた各企業は、原告商標を付した各種商品(以下「原告商品」という。)を販売している。原告商標は、原告の商品等表示である。(甲三(ただし、枝番は省略する。以下同様とする。)ないし二九、三一ないし四七、五三)

2  原告エファ及び原告シカタへの使用許諾

原告エファは、平成八年七月一日、ヒップバッグ、リュックサック、ボストンバッグ及びショルダーバッグに関し、東洋ファッション開発株式会社(以下「東洋ファッション」という。)を介して原告アシェットから原告商標及び原告商標を要部とする標章「ELLE Paris」の排他的な使用許諾を受け、以後、これを付した右商品を製造、販売している。(甲六一、六三、六四)

また、原告シカタも、平成七年六月一日、トートバッグ、ショッピングバッグ、ハンドバッグ、財布、定期入れ、キーケース及び名刺入れに関し、エルパリス株式会社(以下「エルパリス」という。)を介して原告アシェットから原告商標を要部とする標章「ELLE Lumioéore」の排他的な使用許諾を受け、以後、これを付した右商品を製造、販売している。(甲六二ないし六四)

3  被告デコの商標権

被告平成七年一二月、被告デコは、マリー・クレール・インフォメーションから、別紙第二標章目録記載の各商標権(以下、各商標権を「被告商標権①、②、③、④、⑤」と、また、これらをあわせて「被告商標権」といい、その登録商標を「被告登録商標」という。)を譲り受け、いずれの商標権についても平成八年五月二七日に移転登録を経由した。なお、その後、被告デコから福井勘十に対し、平成九年六月二三日移転登録がされ、さらに同人から被告デコに対し、平成九年一一月四日移転登録がされている。被告デコは、以下のとおり、被告タカイシに対し被告商標権④につき、同オナガメガネに対し被告商標権①につき、同佐藤金属に対し被告商標権④につき、同広田に対し被告商標権②につき、被告登録商標の使用を許諾した。(被告デコの被告商標権の譲受日及び福井から被告デコへの移転登録につき、乙二、四、六、八、一〇)

4  被告らの行為

被告タカイシは、被告デコからの前記使用許諾に基づき、ヒップバッグ、リュックサック及びボストンバッグに、被告標章②又は③を付し、これを販売のために展示し、販売した。

被告オナガメガネは、被告デコからの前記使用許諾に基づき、被告標章①又は③ないし⑤を眼鏡フレームに、被告標章①ないし③又は⑤をサングラスにそれぞれ付し、これを販売のため展示し、販売した。なお、本件全証拠によるも、被告オナガメガネが被告標章②を眼鏡フレームに付し、又は、右標章を付した眼鏡フレームを販売し、展示した行為は認められない。(被告標章③を眼鏡フレームに付していることにつき甲五六)

被告佐藤金属は、被告デコからの前記使用許諾に基づき、被告標章①又は③をカフスボタン及びネクタイ止めに付し、これを販売のため展示し、販売した。なお、本件全証拠によるも、被告佐藤金属が、被告標章②をカフスボタン若しくはネクタイ止めに付し、又は、右標章を付したカフスボタン又はネクタイ止めを販売し、展示した行為は認められない。(被告標章③につき甲五八、五九)

被告広田は、被告デコからの前記使用許諾に基づき、被告標章②をガスライターに、被告標章②及び③を灰皿にそれぞれ付し、これを販売のために展示し、販売した。

三  争点

1  原告商標は、著名性ないし周知性を取得したか。

(一) 原告らの主張

(1) 原告アシェットは、昭和二〇年(一九四五年)に、フランスで、原告アシェットが発行する女性向けファッション雑誌(以下「原告雑誌」という。)を創刊した当初から、原告商標を原告雑誌の表紙等に表示して使用してきた。原告雑誌は、女性向けの新しいファッションを紹介・普及させるファッションリーダー的雑誌として、第二次世界大戦後、世界中で人気を博し、その後、原告雑誌は世界各国で発行されている。

日本においても、平凡出版株式会社(以下「平凡出版」という。)が、同原告の許諾の下に、昭和四五年三月、雑誌「an.an(アンアン)」を日本語版原告雑誌と位置づけて創刊し、以来昭和五七年に至るまで「アンアン」には毎号フランス語版原告雑誌の記事が多数掲載されるなど「ELLE」ファッションの紹介・普及を図り、その表紙には必ず原告商標を付してきた。また、平凡出版は雑誌「アンアン」のみにとどまらず、その発行に係る雑誌「クロワッサン」等他の出版物にも、原告雑誌の記事を原告商標の下に多数掲載した。昭和五七年四月、株式会社マガジンハウス(現在は、原告アシェットの一〇〇パーセント子会社である株式会社アシェット フィリパキ ジャパンが、出版業務を引き継いでいる。)により、日本語版女性誌「ELLE」が創刊され、現在に至るまで日本における女性向け雑誌の中で、最も人気の高い雑誌となっている。

(2) 原告アシェットは、昭和三九年以降、帝人株式会社(以下「帝人」という。)を通じて、昭和五九年からは東洋ファッション(現在の商号はエルパリス)、株式会社イトキンを通じて、多数のサブライセンシーの協力の下に、原告商標を付した商品の製造、販売を行ってきた。日本国内のサブライセンシーの数は現在三七社にのぼり、その業種も、被服、布製身回品、ベルト、傘、時計、靴、寝具類、テーブルウェア、バッグ類などファッション性のあるあらゆる商品に及び、その中には、ヒップバッグ等のバッグ類、メガネフレーム、サングラス等の眼鏡製品、ライター、灰皿等の喫煙具等及びカフスボタン、ネクタイピン等の服飾小物(アクセサリー)も含まれる。

各商品には、原告商標のみならず、別紙第一商標目録②記載の商標を初め、原告商標とともに、「PARIS」「PETITE」「HOMME」「SPORTS」などの文字を小さく表示したものもあった。すなわち、原告アシェットは、原告商標を中心とした表示を、原告の商標として継続して使用した。

したがって、日本において、原告商標は、遅くとも「アンアン」が創刊された昭和四五年三月までに周知となり、また、雑誌「ELLE」が創刊された昭和五七年四月までに著名なものとなっていたというべきである。

(二) 被告らの反論

原告商標は、雑誌の題号としても著名、周知でなく、原告商品の商品等表示としても、周知でない。仮に、原告商標が雑誌の題号として周知であるとしても、被服等の商品等表示として周知であることにはならない。

2  被告標章は原告商標と類似しているか。

(一) 原告らの主張

原告商標は、「ELLE」という四文字を横書きにした表示であり、被告標章は、いずれも「ELLE」という四文字を横書きした表示を含む標章である。

被告標章①は、「ELLE」という四文字を横書きしたものに連続して、「CLUB」という四文字を同じく横書きに表示したものである。これはフランス語の「ELLE」と英語の「CLUB」という二つの単語を併記したものであり、「CLUB」は、広く同好の士の集団を意味するごくありふれた日常用語に過ぎないことから、特に注意を引く表示とはいえない。しかも、「CLUB」が商品表示の一部として使用されているような場合には、ある一定の商品群の一部を意味する場合が多いことから、取引に際しては看過されやすい表示である。したがって、被告標章①は、原告商標と同様に、「エル」の称呼及び「彼女は」という観念を生ずるものであり、原告商標に類似する。

被告標章②は、被告標章①の下に、「Paris」という五文字を小さく横書きに表示したものである。「Paris」は、単なる地名を表示したものであり、特に注意を引く表示とはいえず、しかも、その表示が小さいことから取引においては看過されやすい。したがって、被告標章②も、原告標章と同様に「エル」の称呼及び「彼女は」という観念を生ずるものであり、原告商標に類似する。

被告標章③は、被告標章②の中央に、「ELLE」と「CLUB」を分かつように、「E」の文字をリボン状に描いたような図形を付加したものである。右標章は、被告標章②よりも一層、「ELLECLUB」が「ELLE」と「CLUB」の二つの語に分離されているかのような印象を与えるものである。したがって、被告標章③も原告商標に類似する。

被告標章④は、「ELLECLUB」をクロイスターイタリック様の書体をもって、横書きしているものである。これも被告標章①と同様に、「CLUB」の部分は看過されて、「ELLE」と認識され、「エル」の称呼が生じるものであり、原告商標に類似する。

被告標章⑤は、「ELLE」をクロイスターイタリック書体をもって横書きした下側に、「CLUB」をクロイスターイタリック書体で横書きしたものである。これも「ELLE」と認識され、「エル」の称呼が生じるものであり、原告商標と類似する。

(二) 被告らの反論

被告標章①からは、一連一体の称呼及びこれに対応する観念のみを生じ、原告商標とは非類似である。被告標章①と同一の被告標章②ないし④も、同様に原告商標とは非類似である。

また、被告標章⑤は、被告標章①と同一書体の大文字の欧文字「ELLE」及び「CLUB」を近接して上下二段に配したものであるが、被告標章⑤は、眼鏡フレームの鼻に当たる止め具中の極小さな金具に一体として配してあるものであり、かつ、かかる部位は需要者の目に触れず、商標を付する部位ではなく、加えて、需要者の目に触れる部位及びタグに被告標章①及び③が付されているから、被告標章⑤は被告標章①と同一であり、原告商標と非類似である。

3  被告標章の使用は、被告登録商標の使用か。また、被告標章の使用に関して、権利の濫用があるか。

(一) 被告らの主張

被告標章①は、被告登録商標そのものであり、被告標章②は、被告登録商標の下に小さく「Paris」を付したものであり、被告標章③は、被告登録商標の下に小さく「Paris」を付し、被告登録商標及び右「Paris」にかかるようにリボン状の図形を付加したものであり、被告標章④は、被告登録商標と極僅かに書体を異にするものであり、被告標章⑤は、被告登録商標の「ELLE」及び「CLUB」を近接して上下二段に配したものであり、いずれも、被告登録商標と同一である。被告らが、被告標章を付しているヒップバッグ等は、いずれも被告商標権の指定商品に含まれる。したがって、被告らによる被告標章の使用は、いずれも被告登録商標の使用である。

(二) 原告らの反論

被告商標②ないし⑤は、被告登録商標とは別個の異なる標章であり、これらの使用を被告登録商標の使用であるということはできない。

被告標章①については、被告登録商標の使用であるが、被告標章①の使用は権利の濫用に当たる。すなわち、被告デコが被告商標権の譲渡を受けたのは平成八年初めである。原告商標が著名である状況で、原告商標と類似する被告標章①を、原告らが扱う商品と同じ類に属する商品に使用すれば、一般消費者がこれと原告商品とを誤認混同することは、被告デコにおいても十分理解していたはずである。それにもかかわらず、被告デコが被告標章①の使用を開始したのは、原告商標の著名性に便乗して商品を販売し、利益を図らんとする意図があったからである。この様な意図の下に被告標章①を使用することは、たとえこれが被告商標権の行使であるとしても、権利濫用として、認められない。

第三  争点に対する判断

一  争点1(原告商標の周知性、著名性)について

1  原告アシェットは、昭和二〇年(一九四五年)に、フランスで、原告商標を題号として使用した女性向けファッション雑誌(原告雑誌)を創刊し、その後昭和六〇年(一九八五年)ころからは、アメリカ合衆国、カナダ、イギリス、イタリアを初め、世界各国で原告商標を付した原告雑誌を発行している。日本においては、平凡出版が、昭和四五年三月、原告の許諾の下に雑誌「an.an」を発行し、その表紙には「ELLE JAPON」と付されていた。平凡出版は、昭和五七年五月には題号の一部に原告商標を使用した日本語版の原告雑誌「ELLE JAPON」を創刊し、その後、右出版業務は株式会社アシェット フィリパキ ジャパンが承継している(甲三ないし三一、五三、五四)。

なお、昭和六一年六月三〇日増補版第五刷発行の増補版服飾大百科事典下巻には、「エル」の項目に、原告雑誌がファッション中心に編集したフランスの若い女性向きの週刊誌であり、最近では「エル・ファッション」と呼ばれ、全世界の若い女性たちの間に支持者を持つようになっている旨の記載があり、昭和五四年三月五日発行の服飾辞典にも、「エル・ファッション」の項目に、フランスの女性雑誌「ELLE」によって生み出されたファッションのことと記載されている(甲四八、四九)。

2  原告アシェットは、原告商標の商品化活動を推進し、昭和三九年以降は帝人を介して、昭和五九年七月からは自ら設立した東洋ファッション(平成四年七月一日、エルパリスに商号変更)を介して、日本国内においても多数の企業に対して原告商標の使用を許諾し、現在までに、右使用権者により、被服、アクセサリー、バッグ類、はき物、傘、時計、眼鏡製品、喫煙具、生活用品等多種類の分野につき、原告商標の付された商品が製造・販売されている。なお、日本国内における平成八年度における原告商標の付された商品の総売上高は、四三四億円以上にものぼっている(甲三二ないし四七、五三、五四)。

3  以上によると、原告商標は、遅くとも平成七年暮れには、原告アシェットの女性向けファッション雑誌における商品等表示として、さらに、原告アシェットのファッション関係を中心とした各種商品における商品等表示として周知かつ著名であると認められる。

二  争点2(被告標章と原告商標との類似性)について

1  原告商標は、欧文字の「ELLE」を横書きしたものであり、右「ELLE」を構成する欧文字は、いずれも縦長であって、各文字の横線の右端部分に縦方向に拡大されたひげがあり、また、各文字の縦線は、横線に比べて太いという特徴がある。原告商標からは、「エル」の称呼を生じる。

2 被告標章①は、欧文字の「ELLECLUB」をブロック体の文字で横書きしたものである。

被告標章①は、「ELLECLUB」と、「ELLE」部分と「CLUB」部分を区切らずに、連続的に書かれているが、「CLUB」部分は、同好会を意味する英語の「クラブ」という語を、一般人をして容易に認識させ得るものであることからすると、「ELLECLUB」は、「ELLE」と「CLUB」の別々の単語が結合したものとして認識される。そして、「ELLE」の部分が頭に表示されていること、「ELLE」は原告アシェットの商品等表示として著名な原告商標と同じ綴りであること、これに対し、「CLUB」は広く同好会を意味する日常語であることからすると、一般消費者は、被告標章①のうち「ELLE」の部分が、商品の出所表示機能を有する部分であると理解するものと認められる。そうすると、被告標章①の要部は「ELLE」の部分と解すべきである。

そこで、原告商標と被告標章①の要部とを対比すると、その称呼は「エル」であって同一であり、外観は、字体は異なるがいずれも「ELLE」であって類似している。したがって、被告標章①は原告商標と類似する。

3 被告標章②は、欧文字の「ELLECLUB」を横書きし、中央下方に、右文字よりも小さく、細めの欧文字の「Paris」を横書きしたものである。

被告標章②のうち、「Paris」の部分は、他の部分に比較して、小さく、かつ細字で表記されており、特に注意を引くような表示態様ではないこと、地名は一般的に商品の生産地等を説明したものと認識されることからすると、右部分には、商品の出所表示機能はないと解するのが相当である。

そこで、被告標章②のうち「ELLECLUB」の部分について検討すると、右2と同様の理由により、一般消費者は、「ELLECLUB」のうち「ELLE」の部分が、商品の出所表示機能を有する部分であると理解するものと認められる。そうすると、被告標章②の要部は「ELLE」の部分と解すべきである。

そこで、原告商標と被告標章②の要部とを対比すると、その称呼は「エル」であって同一であり、外観は、字体は異なるがいずれも「ELLE」であって類似している。したがって、被告標章②は原告商標と類似する。

4 被告標章③は、欧文字の「ELLECLUB」を横書きし、中央下方に、右文字よりも小さめの欧文字の「Paris」を横書きし、さらに、中央に、「ELLECLUB」と交差するように、リボン状の上下方向に伸びた図形を配置したものである。

被告標章③のうち、「Paris」の部分は、他の部分に比べて文字が小さく、特に注意を引くような表示態様ではないこと、地名は一般的に商品の生産地等を説明したものと認識されることからすると、右部分には、商品の出所表示機能がないと解するのが相当である。さらに、その余の「ELLECLUB」の部分について検討すると、右リボン状の図形により、「ELLECLUB」は、「ELLE」と「CLUB」に分離されたような外観が生じており、前記2と同様の理由により、一般消費者は、「ELLE」の部分が商品の出所表示機能を有する部分であると理解するものと認められる。そうすると、被告標章③の要部は「ELLE」の部分であると認められる。

そこで、原告商標と被告標章③の要部とを対比すると、その称呼は「エル」であって同一であり、外観は、字体は異なるがいずれも「ELLE」であって類似している。したがって、被告標章③は原告商標と類似する。

5 被告標章④は、欧文字の「ELLECLUB」を横書きしたものである。

被告標章④についても、前記2と同様の理由により、一般消費者は、「ELLECLUB」のうち「ELLE」の部分が商品の出所表示機能を有する部分であると理解するものと認められる。そうすると、被告標章④の要部は、「ELLE」の部分であると解すべきである。

そこで、原告商標と被告標章④の要部とを対比すると、その称呼は「エル」であって同一であり、外観は、字体は異なるがいずれも「ELLE」であって類似している。したがって、被告標章④は原告商標と類似する。

6 被告標章⑤は、欧文字の「ELLE」を横書きし、その下方にほぼ同じ大きさの字体で欧文字の「CLUB」を横書きしたものである。

被告標章⑤は、前記2で示した理由に加え、「ELLE」と「CLUB」が上下二段に分けて表記されていることから、別々の二つの単語が結合したものとして認識される。そして、「ELLE」の部分が「CLUB」の部分より、上部に配置されていること、「ELLE」は原告アシェットの商品等表示として著名な原告商標と同じ綴りであること、他方、「CLUB」は広く同好会を意味する日常語であることからすると、一般消費者は、被告標章⑤のうち「ELLE」の部分が、商品の出所表示機能を有する部分であると理解するものと認められる。そうすると、被告標章⑤の要部は「ELLE」の部分であると解すべきである。

そこで、原告商標と被告標章⑤の要部とを対比すると、その称呼は「エル」であって同一であり、外観は、字体は異なるがいずれも「ELLE」であって類似している。したがって、被告標章⑤は原告商標と類似する。

三  争点3(被告登録商標の使用及び権利濫用)について

1 被告デコが、被告商標権を有していることは前記のとおりである。ところで、商標権は、指定商品について当該登録商標を独占的に使用することができることをその内容とするものであるから、被告デコが被告標章を自ら使用し、又は、第三者をして使用させる態様が、自己の被告登録商標の使用と認められるような場合は、そのような使用態様に対し、原告らは不正競争防止法二条一項一号又は二号に基づく差止を求めることはできないというべきである。

そこで、被告標章の使用態様が、被告登録商標の使用と認められるか否かについて検討する。一般に、商標権者が登録商標を使用する場合には、必ずしも、登録商標と全く同じ商標を用いるとは限らず、商品の種類・性質に応じて、また消費者の趣向や流行等に合わせて、創意工夫して使用することが行われていること等の諸事情を総合的に考慮するならば、被告らが使用する標章が、被告登録商標と全く同一でなくとも、取引の実情に鑑みて社会通念上同一と認識されるものであれば、原告の右差止請求は許されないものというべきである。

そこで、右の観点から、まず、被告標章と被告登録商標との異同について判断する。

2(一)  被告登録商標は、欧文字の「ELLECLUB」をブロック体の文字で、連続して一行に横書きしたものである。

まず、被告標章①は、前記二2のとおり、被告登録商標と同一である。また、被告標章④は前記二5のとおりである。被告標章④を被告登録商標と対比すると、字体は異なるものの、いずれも欧文字の「ELLECLUB」を横書きしたもので、すべての文字が、同じ大きさの大文字で構成されていることからすると、被告標章④は、被告登録商標と社会通念上同一と認識される商標と認められる。

眼鏡フレーム、サングラスは、被告商標権①の指定商品に、カフスボタン、ネクタイ止めは、被告商標権④の指定商品に含まれることから、被告デコ、被告オナガメガネ、被告佐藤金属が被告標章①又は④を使用したり、使用をさせたりすることは、被告登録商標の使用であるということができる。

(二)  被告標章②、③、⑤は、それぞれ前記二3、4、6のとおりである。被告標章②、③、⑤を被告登録商標と対比すると、被告標章②には被告登録商標にはない「Paris」の文字が付加されていること、被告標章③には、被告登録商標にはない「Paris」の文字及びリボン状の図形が付加されていること、被告標章⑤は、「ELLE」と「CLUB」を上下二段に分けて横書きされていること等の点に照らし、被告標章②、③、⑤はいずれも、被告登録商標と社会通念上同一と認識される商標ということはできない。

したがって、被告らが商品に、被告標章②、③、⑤を付する等の行為は、被告登録商標の使用であるということはできない。

3 そこで、被告標章①及び④に関して、被告らの使用態様等が権利濫用に該当するか否かについて検討する。

前記のとおり、遅くとも、平成七年暮れには、原告商標は、原告雑誌ばかりでなく、各種商品の商品等表示としても著名であったところ、被告デコは、平成七年一二月に被告商標権を譲り受け、平成八年四月四日、右譲渡を原因とする移転登録手続を了した(なお、被告商標権についてはいずれも平成八年二月二〇日付で商標権取消審判の予告登録がされていた(乙二、四、六、八、一〇)。)。右の事実経緯に照らすならば、被告デコは、原告商標の著名性を十分知りながら、その著名性に便乗し、利益を図る目的で、原告商標と類似する登録商標に係る被告商標権を第三者から譲り受けたものと推認することができ、したがって、被告デコが被告商標権を取得した行為及びこれに基づき被告登録商標を使用する行為には、既に著名性を有している原告商標の円滑な行使等の活動を害する意図があるものと解される。このような場合、被告デコが被告商標権を取得した行為、及び、被告登録商標を使用する行為は、いずれも、原告商標について原告が得ていた権利ないし法的地位を害するものとして権利の濫用に該当するものと解すべきである。また、被告デコを除くその余の被告らが、被告デコから使用許諾を受けて被告登録商標を使用することも、同様に権利濫用に該当する。

そうすると、自らの被告登録商標の使用であることを理由として当該標章の使用が不正競争行為に当たらないとの被告らの主張は、失当として排斥すべきである。

4  以上により、原告らの請求は、主文の範囲で理由がある。なお、訴訟費用については、当裁判所の裁量により、全部につき被告らの負担とした。

(裁判長裁判官飯村敏明 裁判官八木貴美子 裁判官沖中康人)

別紙第一標章目録

別紙第一商標目録

別紙

第二商標目録

商標登録番号

第1949140号

商標

別紙第一標章目録①記載のとおり

商品区分

第23類

指定商品

時計、眼鏡、これらの部品および附属品

出願年月日

昭和59年8月13日

出願公告年月日

昭和61年9月10日

出願公告番号

61―069387

登録年月日

昭和62年4月30日

商標登録番号

第1904777号

商標

別紙第一標章目録①記載のとおり

商品区分

第27類

指定商品

たばこ、喫煙用具、マッチ

出願年月日

昭和59年8月13日

出願公告年月日

昭和61年3月5日

出願公告番号

61―017964

登録年月日

昭和61年10月28日

商標登録番号

第2126774号

商標

別紙第一標章目録①記載のとおり

商品区分

第4類

指定商品

せっけん類(薬剤に属するものを除く)歯みがき、

化粧品(薬剤に属するものを除く)香料類

出願年月日

昭和59年8月7日

出願公告年月日

昭和62年5月15日

出願公告番号

62―031382

登録年月日

平成1年3月27日

商標登録番号

第1918565号

商標

別紙第一標章目録①記載のとおり

商品区分

第21類

指定商品

装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉および

その摸造品、造花、化粧用具

出願年月日

昭和59年8月7日

出願公告年月日

昭和61年5月6日

出願公告番号

61―032831

登録年月日

昭和61年12月24日

商標登録番号

第1922228号

商標

別紙第一標章目録①記載のとおり

商品区分

第24類

指定商品

おもちゃ、人形、娯楽用具、運道具、その他本類

に属する商品

出願年月日

昭和59年8月13日

出願公告年月日

昭和61年6月4日

出願公告番号

61―042470

登録年月日

昭和61年12月24日

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